パルスフィールド・ゲル電気泳動を用いた階層的全ゲノムシークエンシング:MRSA の交差感染源の推定における本手法の有用性★
Whole-genome sequencing in hierarchy with pulsed-field gel electrophoresis: the utility of this approach to establish possible sources of MRSA cross-transmission
G. Moore*, B. Cookson, N.C. Gordon, R. Jackson, A. Kearns, J. Singleton, D. Smyth, A.P.R. Wilson
*University College London Hospitals NHS Foundation Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2015) 90, 38-45
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)のミクロな疫学を効率的に調べるためには、用いる分子タイピング法によって、株の識別が可能でなければならない。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法はわずかな遺伝的相違でも検出することができるが、主要な系統に属する株間において区別しようとすると、その識別能には限界がある。一方、全ゲノムシークエンシングには、他の方法では識別できない株間の関連を裏づけたり、あるいは否定できる十分な分析能があるが、従来のタイピング法のような実用性には欠けている。
目的
集中治療室で分離された MRSA の交差感染源を推定することで、PFGE を用いた階層的アプローチにおける全ゲノムシークエンシングの有用性について評価すること。
方法
職員の手指や空気、環境表面を介して交差感染が生じたと想定した。これらの伝播経路を仮説とし、PFGE 法を用いて評価を行うとともに、共通する PFGE パターン(パルソタイプ)が関与していた場合には、全ゲノムシークエンシングを実施した。
結果
入院後に MRSA の保菌が新たに判明したのは 78 件であり、このうち38 件では臨床分離株を解析できず、評価困難であった。残りの 40 件中 26 件では、PFGE のパターン上、感染源(ドナー)である可能性は除外された。しかし 14 件の新規保菌では、感染源の候補を特定することができた。PFGE の結果を踏まえると、同一の多床室内、同一のベッドスペース、隣接する隔離室、および異なる病棟の入室患者間で関連があるという仮説が支持され、さらに感染源となった患者が特定されない場合でも、病棟環境や職員の手指を介した伝播が示唆された。しかしながら全ゲノムシークエンシングで解析を行うと、これらの伝播経路のうち 3 件が否定された。
結論
全ゲノムシークエンシングは、想定される MRSA の伝播経路(仮説)について、それを支持したり、または否定することによって、従来のタイピング法を補完し得る。そのプロセスでは疫学データが極めて重要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
本検討は、MRSA の保菌、伝播経路の分子疫学的解析において、全ゲノムシークエンシングが PFGE に勝る点を具体的に明らかにしている。実用性には劣るものの、全ゲノムシークエンシングによって PFGE の限界が判明したともいえる。今後の研究の進展と新たな知見が待たれる。
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