メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の地域的流行の定着を低蔓延国で実証するためには spa タイピング単独では不十分である

2014.10.31

spa typing alone is not sufficient to demonstrate endemic establishment of meticillin-resistant Staphylococcus aureus in a low-prevalence country


A.E. Fossum Moen*, M. Holberg-Petersen, L.L. Andresen, A. Blomfeldt
*University of Oslo, Norway
Journal of Hospital Infection (2014) 88, 72-77
背景
ノルウェーではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の蔓延はみられないものの、増加しつつある。この十年間に、多数のナーシングホームで MRSA のアウトブレイクが発生している。遺伝子型の 1 つである spa 型 t304 は多数のナーシングホームで同定されており、数年間に及ぶ大規模なアウトブレイクを引き起こしている。
目的
MRSA の低蔓延地域において、その拡散および地域的流行の定着を検出するためには spa タイピングで十分であるかどうかを、spa 型 t304 を試験菌として評価すること。
方法
ノルウェーの最も人口密度が高い地域で 1991 年から 2010 年に検出された spa 型 t304 の全分離株を対象とした。菌の採取日と場所を記録した。Multiple-locus sequence typing(MLST)法、ブドウ球菌カセット染色体(SCC)mec タイピング、lukS/F-PV 検出、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法を用いて分離株の分析を行った。
結果
23 市町村のうち 3 市町村で合計 181 株の spa 型 t304 分離株が同定された。大半の分離株(91%)は 13 施設のナーシングホームとの関連が認められ、このうち 8 施設ではアウトブレイクが発生していた。PFGE 分析により、19 の PFGE パターンからなる 3 つの PFGE 型が判明し、95%の分離株が PFGE 2 型であった。ナーシングホームからの全分離株の 99%が PFGE 2 型および 3 型であり、種々のナーシングホームから、種々のアウトブレイクで、種々の期間に分離株が得られた。さらなる遺伝子解析を行ったが、spa 型 t304 分離株を細分類することはできなかった。
結論
MRSA の spa 型 t304 は、研究対象地域で地域流行性の遺伝子型として定着していたと考えられる。低蔓延地域において地域流行性の可能性のある遺伝子型の拡散を調査する場合に、spa タイピングは十分な分析法ではなく、別のタイピング法で補完する必要がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
MRSA の分子疫学の代表的解析方法として、PFGE 法、MLST 法、spa タイピング、SCCmec タイピングなどがあり、クローンの分子疫学解析に広く利用されている。黄色ブドウ球菌の病原因子の 1 つであるプロテイン A の遺伝子(spa)の多変領域の塩基配列を決定することで、MRSA のクローンを決定するのが spa タイピングである。本論文での解析では、この遺伝子領域に変化がないため十分な解析ができず、MRSA の全遺伝子を制限酵素による切断後に電気泳動解析する PFGE によりタイピングが可能であった。MRSA の蔓延が極めて低い地域で特定の遺伝子型が定着している場合には、1 種類の方法ではなく複数の手法を用いて解析しなければならない場合がある。

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