医療関連感染の研究に対する資金提供:1997 年から 2010 年の英国の研究投資に関する系統的分析

2014.06.30

Funding healthcare-associated infection research: a systematic analysis of UK research investments, 1997-2010


M.G. Head*, J.R. Fitchett, A.H. Holmes, R. Atun
*University College London, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 87, 84-91
背景
医療関連感染は、英国の保健上および経済的な大きな負荷の原因となっている。英国で資金提供を受けた医療関連感染の調査研究の件数や投資額の分析は、これまで実施されていない。
目的
医療関連感染の研究のために英国の施設に提供された研究資金の額を評価するとともに、資金提供を受けた研究と医療関連感染による臨床的・公衆衛生上の負荷との関連を評価すること。
方法
感染性疾患の調査研究に対して1997 年から 2010 年の間にどのように資金が提供されたかに関する情報を入手するため、データベースとウェブサイトの系統的検索を実施した。医療関連感染に強く関連する研究を特定し、資金提供を病原体ごと、疾患ごと、および研究のタイプによって示される研究開発のバリューチェーン※※ごとに分類した。
結果
全データセットに含まれる研究は 6,165 件、投資総額は 26 億ポンドであり、このうち明確に医療関連感染の研究に対して提供された資金は 297 件、5770 万ポンドであった(総額の 2.2%、感染症の研究総数の 2.1%)。医療関連感染関連プロジェクトのうち、45 件(1030 万ポンド)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、14 件(1070 万ポンド)は Clostridium difficile、2 件(30 万ポンド)は肺炎、103 件は外科感染症(1410 万ポンド)に焦点を当てたものであった。研究への資金提供額の平均値は 194,129 ポンド(標準偏差 429,723 ポンド)、中央値は 52,684 ポンド(四分位範囲 9,168 ~ 201,658 ポンド)であった。資金提供額の範囲は 108 ポンドから 5000 万ポンドであった。
結論
医療関連感染に対する研究投資は研究期間中に徐々に増加していたが、医療関連感染の公衆衛生上、経済的、および社会的負荷を考慮すると依然として低水準であった。院内肺炎、行動介入、経済分析、および抗菌薬耐性の新興病原体に関する研究に対しては、依然として十分な資金提供がなされていない。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
わが国でも医療関連感染に関する研究は、臨床上あるいは公衆衛生学上の必要性に比し非常に少ない件数にとどまっている。そして各研究は大多数が小規模なものである。一方経済的、社会的な要求に対しても応えることができているとはいえない。本検討のように医療関連感染に関する研究を研究規模、資金の面から解析し、その妥当性を議論することは、わが国の本分野における研究の方向性を定めていくうえで応用可能であり、将来にわたって極めて重要といえるであろう。
監訳者注:
研究のタイプ(type of science):本稿では、前臨床研究、臨床研究(第 I ~ III 相)、製品開発研究、およびトランスレーショナル・リサーチの 4 種類に分類している。
※※バリューチェーン(value chain):もともとは米国の経営学者マイケル・E・ポーターがその著書で、企業の競争優位性を評価するために提起した概念であり、企業活動全体を細分化し、個々の活動が有する意義やコストを精査したうえで、全体的な価値を評価するという作業の枠組みのことを指す。本稿では単に、研究の一連の流れにおいての個々の研究ステップ(すなわち、上述の「研究のタイプ」)のことを指していると思われる。

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