医療環境における感染症の伝播の時空間分析を用いた調査

2014.04.28

Spatial and temporal analyses to investigate infectious disease transmission within healthcare settings


G.S. Davis*, N. Sevdalis, L.N. Drumright
*Imperial College London, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 227-243
背景
医療関連感染は世界中で多くの疾患・死亡の原因となっているが、そのアウトブレイクが判明するのは高いレベルに到達した後となることが多い。医療環境内では広範なデータが収集されているが、これらの情報が医療関連感染の動態を理解するためにどの程度用いられているかについては、これまでに定量的評価は行われていない。
目的
医療関連感染の伝播の特定および予防を目的とした時空間分析の利用について検討すること、またこれらの分析手法の利用を推し進めるうえでの利点を提示すること。
方法
医療環境における感染症の時空間分析に関する文献を対象として、システマティックレビューを実施した。2 名の著者が独立して抄録および論文フルテキストを精査し、対象とする論文を決定した。
結果
合計 146 件の研究が組み入れ基準に合致した。データの取り扱いについては大きなばらつきが認められ、医療関連感染の伝播動態を考察するするために時空間分析を利用していた研究は、驚くほどわずかであった(22 件)。残りの 124 件は記述研究であった。統計学的分析手法が適用される例が、近年は軽度に増加していた。
結論
時空間分析を利用した医療環境での研究はわずかしか行われておらず、そのような分析法を用いていた研究は 15%のみであった。分析的研究では、時空間分析を行わない研究と比較して、伝播動態および効果的な制御介入に関するデータがより多く得られていた。シンプルな分析であっても、単純な記述的要約と比較すれば感染予防に関する理解が大きく向上することから、本研究の結果は、医療関連感染の調査にあたっては時空間分析法の利用を推進する必要があることを示している。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
医療関連感染に関する論文の中で、「時・場所」についてただ単に言及するのではなく、目的としてとらえる、あるいはディスカッションポイントとして取り上げているものについてのシステマティックレビューである。対象となった論文の多くは、アウトブレイク事例の調査研究であった。感染源、感染経路、リスク因子を解析するときに重要なのは、「時・場所・人」の 3 要素を確実に押さえることである。すべては記述疫学から始まることを再確認し、そのうえで、分子疫学や時空間解析により真の姿を「見せる化」できればデータがさらに生きてくると思われた。

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