感染制御行動の文化的決定因子:推進因子の理解と効果的な変革の実践★

2014.03.31

Cultural determinants of infection control behaviour: understanding drivers and implementing effective change


M.A. Borg*
*Mater Dei Hospital and University of Malta, Malta
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 161-168
感染予防・制御は生物医学的な実践に関する取り組みであるが、本質的には行動科学の問題であるといえる。ヒトの行動は、文化を含む様々な因子の影響を受ける。Hofstede が提唱する「文化的次元モデル」では、特定の構成要素として分類・スコア化することが可能な一定の次元において、国民文化は異なることが指摘されている。これらの構成要素のうち「権力格差」、「不確実性の回避」、および「男性らしさ」の3つが、感染予防・制御および抗菌薬使用の管理と関連する複数の重要なパフォーマンス指標(キー・パフォーマンス・インジケーター)と有意な関連を示すことが、複数の研究から報告されている。さらに、欧州各国のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の検出頻度は、予防戦略や患者の人権などの全般的な医療の質の指標と強く相関する。このことは、感染予防・制御は、病院や国における全般的な質や安全性の基準の縮図にほかならないことを示唆している。したがって、有効な改善戦略を議論するには、患者の安全やケアの質に関する基本的・根本的な文化的価値観に触れる必要がある。成功に至る可能性が高い感染予防・制御戦略は、おそらくその実施環境における文化的背景に則った戦略であろう。感染予防・制御戦略を成功させるために行われた現行の種々の感染制御・予防の改善手法に関する内容分析からは、「不確実性の回避」と「権力格差」が弱く、「個人主義」と「男性らしさ」が強い文化への親和性が高い要素が明らかにされている。しかし、このような文化的特性の組み合わせは、近年の医療関連感染発生率の改善のほとんどが行われたアングロサクソン諸国に概ね限定される。種々の文化的背景、特に「権力格差」および/または「不確実性の回避」のスコアが高い国々における感染予防・制御の行動変容に関する研究は乏しい。このような国々では医療関連感染発生率が高いことが多いが、そこで感染予防・制御キャンペーンを浸透させるためには、これらの情報が不可欠である。
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監訳者コメント
「アメリカやイギリスで行われた研究結果が、果たして日本の病院でも同じように当てはめることができるのか」。諸外国の研究結果やガイドラインが出るたびに、このような「答えのない」議論が繰り返されてきた。
Edward Joseph Lister Lowbury は英国病院感染学会の初代会長であるが、その名を冠したレクチャーが「Lowbury lecture」であり、本論文は 2013 年の Lowbury lecture が文書化されたものである。筆者はイタリア半島に隣接するマルタ共和国のマルタ大学で感染管理・抗菌薬スチュワードシップに従事する医師であり、2007 年には 50 か国以上の国々が参加する国際感染管理協会の会長を務めている。文中には行動科学や文化学領域のやや難解な用語が多いが、冒頭のように「気にはなるけどよくわからない」問題に正面から取り組んだ論文であり、時間と興味のある方にはぜひ一読をお勧めする。

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