医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は入院患者の院内インフルエンザ様疾患のリスクに影響するか?★

2014.03.31

Can influenza vaccination coverage among healthcare workers influence the risk of nosocomial influenza-like illness in hospitalized patients?


E. Amodio*, V. Restivo, A. Firenze, C. Mammina, F. Tramuto, F. Vitale
*University of Palermo, Italy
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 182-187
背景
毎年、約 20%の医療従事者がインフルエンザに感染し、院内アウトブレイクや職員不足を引き起こしている。医療従事者のインフルエンザワクチン接種は最も効果的な予防戦略であるが、接種率は依然として低い。
目的
急性期病院の入院患者の院内インフルエンザ様疾患リスクと、医療従事者のインフルエンザ接種率との関連を解析すること。
方法
イタリアの急性期病院 1 施設で、連続 7 回のインフルエンザシーズン(2005 年から 2012 年)に収集したデータを後向きに解析した。データソースとして、病院の退院記録、医療従事者のインフルエンザワクチン接種率、および一般集団のインフルエンザ様疾患発生率の 3 種類を使用した。院内インフルエンザ様疾患の定義には、国際疾病分類(ICD)第 9 版のClinical Modification(CM)コードを用いた。
結果
合計 62,343 例の入院患者を本研究に組み入れ、このうち 185 例(0.03%)が院内インフルエンザ様疾患症例として特定された。医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は研究期間中に 13.2%から 3.1%に低下し(P < 0.001)、一方、入院患者の院内インフルエンザ様疾患発生率は 1.1‰から 5.7‰に上昇した(P < 0.001)。医療従事者のインフルエンザワクチン接種率と、患者の院内インフルエンザ様疾患発生率との間には、有意な負の関連が認められた(補正オッズ比 0.97、95%信頼区間 0.94 ~ 0.99)。
結論
医療従事者のインフルエンザワクチン接種率を上昇させることによって、急性期病院の入院患者の院内インフルエンザ様疾患リスクの低下を図ることができると考えられた。本研究は、病院が医療従事者に対するインフルエンザワクチン接種の有益性を評価・周知を推進するうえで、信頼性が高くかつ費用節減をもたらす方法を提供するものである。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本論文ではワクチン接種率 13%から 3%に低下することで、院内でのインフルエンザ様疾患の発生率が有意に上昇していることから、医療従事者のワクチン接種率を上昇させることの重要性を強調している。米国疾病対策センター(CDC)の推奨では、入院患者でのインフルエンザ感染拡大阻止のためには、医療従事者のワクチン接種率 60%が必要とされており、本論文よりもはるかに高い。各国の医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は、EU 諸国(英国、フランス、ドイツ、スペイン)での接種率は 15% ~ 29%程度で、カナダ、オーストラリア、米国では30% ~ 50%程度と報告されている。コクランのメタアナリシスでは、高齢者施設でのワクチン接種率と施設内感染の発生率との間に逆相関があることも示唆されている。ワクチン株と流行株との当たり外れ、市中での流行状況などにより、これらのデータは左右される。また、医療従事者の感染への意識の高さは、接種率を上昇させ、咳エチケットや手指衛生等の感染予防対策の向上も相まって、結果的に施設内での感染拡大を阻止できる。インフルエンザシーズンでは、早期にインフルエンザ様疾患の医療従事者を発見し、就業制限を実施することも重要である。

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