医療関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)菌血症のアウトブレイク:流行株中の隠れた(cryptic)変異株の役割★

2014.02.28

Healthcare-associated outbreak of meticillin-resistant Staphylococcus aureus bacteraemia: role of a cryptic variant of an epidemic clone


R.M. Miller*, J.R. Price, E.M. Batty, X. Didelot, D. Wyllie, T. Golubchik, D.W. Crook, J. Paul, T.E.A. Peto, D.J. Wilson, M. Cule, C.L.C. Ip, N.P.J. Day, C.E. Moore, R. Bowden, M.J. Llewelyn
*University of Oxford, John Radcliffe Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 83-89
背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症の発症率や臨床的特徴に変化が認められる場合、それには新しい株の出現が関与している可能性がある。しかしながら従来のタイピング法では、疫学や臨床的な表現型の変化をもたらしている新しいクローン変異株(clonal variant)が検出できないことがある。
目的
イングランドの病院で発生した MRSA 菌血症のアウトブレイク(2004 ~ 2006年)において、クローン変異株の役割を調べること。
方法
英国の主要な MRSA 系統(EMRSA-15 および EMRSA-16)に属する菌血症由来株を、アウトブレイクの前後に採取し、全ゲノムシークエンスを行うとともに,その結果と疫学および臨床データとの関連を解析した。なお比較のため、イングランドの他の病院で分離された EMRSA-15 と EMRSA-16 のシークエンスも行った。アウトブレイクが発生した病院で EMRSA-16 のクローン変異株が 1 株特定されたため、さらに他の EMRSA-16 株についても変異株を検出する目的で、一塩基変異多型を用いたタイピング(molecular signature test)も実施した。
結果
全ゲノムシークエンスにより、アウトブレイク中の EMRSA-16 分離株は、アウトブレイク前および対照とした病院の EMRSA-15 および EMRSA-16 分離株と比較して遺伝的多様性が極めて低かった(P < 1 × 10-6、Monte Carlo 法)。これはクローン変異株の増加を示していた。一方、従来のタイピング法では変異株を祖先型と識別することはできなかった。なお、このクローン変異株は、アウトブレイクが発生した病院で 2006 年以降に菌血症例から分離された EMRSA-16 の 72 株のうち、89%(64 株)を占めていた。
結論
従来のタイピング法では検出されない MRSA 流行株の進化的な変化は、疫学上の変化と関連している可能性がある。全ゲノムシークエンスの迅速かつ安価な技術が利用可能になってきているため、クローン性が高い微生物集団の中から変異株の出現を発見し、追跡することが可能であると考える。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
MRSA の分子疫学的解析には、これまで PFGE や POT(phage open-reading frame typing)法、MLST(multilocus sequence typing)が主に使用されてきた。しかしながら今回の検討により、全ゲノムシークエンスでなければ分別できないような新規の変異株の出現と増加が明らかになった。他にも Clostridium difficile などで同様の手法が伝播要因の解明に役立った報告がなされているが、本邦でも全ゲノムシークエンスは身近に利用可能になってきており、今後この技術を応用した疫学調査がさらに容易になると予想される。
監訳者注:
EMRSA:MRSA 流行株(epidemic MRSA)の略。

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