院内感染制御を目的とした介入研究:研究デザインおよび統計に関する問題
Interventions to control nosocomial infections: study designs and statistical issues
M. Wolkewitz*, A.G. Barnett, M. Palomar Martinez, U. Frank, M. Schumacher for the IMPLEMENT Study Group
*University of Freiburg, Germany
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 77-82
院内感染の減少を目的とした介入研究には、多くの研究デザインが可能である。しかしながら、競合するイベントやクラスタリング、複数のタイムスケール、および時間依存性の期間変数および介入変数といった問題が存在し、その解析は複雑とならざるを得ない。本総説では、広く用いられている疑似実験的な前後比較デザインについて評価を行い、ランダム化デザインと比較した。ランダム化にはいくつかの方法があるが(並行群間比較試験でのクラスター[集中治療室(ICU)や病院など]のランダム化や、クロスオーバー比較試験での介入順序のランダム化、およびステップウェッジデザイン※1での介入時期のランダム化など)、著者らは院内感染の評価にこれらの研究手法を用い、バイアス、介入以外に影響を及ぼすファクター、および一般化可能性※2などの重要項目について、各手法を比較した。さらに統計学的な問題も検討した。
アウトブレイクが生じた状況で後向きに解析を行う際には、介入前後比較デザインが、有用な情報が得られる唯一の方法であることが多い。この手法はパイロット研究と見なされるが、因果関係をさらに明確にするために、より厳密に計画した研究を行う必要がある。一方、内的妥当性※3が良好な結果を得るためには、ランダム化が必要である。一般的に、内的妥当性を確保するための第一選択は、並行群間ランダム化試験である。しかし、特にパイロット研究により有望な結果が得られている場合には、ステップウェッジデザインのほうが、ICU を初めとするより多くの医療従事者の参加が得られる可能性があるため、一般化可能性が強いと考えられる。統計解析には、拡張した競合リスクモデルの使用が推奨される。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
感染対策に関する介入研究には、(1)単なる介入前後の比較研究、(2)対照群を置いた、介入前後の比較研究、(3)セクションないし施設をランダムに割り振った、平行群間比較試験、(4)クロスオーバー比較試験(2 つの群に時期をずらして介入を行い、比較する)、(5)介入時期をランダム化し、複数の群に順次介入を行っていくステップウェッジデザインの 5 つがある。(3)は内的妥当性に優れるという特長を持つ。一方で一般化可能性が高いことは、結果を他の集団に当てはめても同様の結果が得られることを意味するが、(5)のステップウェッジデザインはこの点に優れていると筆者は指摘している。
監訳者注:
※1ステップウェッジデザイン(stepped-wedge design):複数の試験群に対して、介入を導入時期をずらして順次適用していく方法。比較的少数を対象として介入を開始できるため、効率性や経済性に優れると考えられるほか、季節変動や導入後期間などの時期効果を評価できることが利点とされる。
※2一般化可能性(generalizability):ある試験で得られた知見を、より広範囲の患者集団や広範囲の条件へと信頼性をもって広げて解釈できる度合い。
※3内的妥当性(internal validity):研究対象者と同じ集団に対して同様の介入を行った場合、同等の結果が再現される程度を指す。因果推論の適切さを示すものでもある。
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