乾癬を有する医療従事者に由来する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)手術部位感染症の長期アウトブレイク★★
Prolonged outbreak of Staphylococcus aureus surgical site infection traced to a healthcare worker with psoriasis
S.A. Crusz*, C. Yates, S. Holden, A. Kearns, T. Boswell
*Nottingham University Hospital, UK
Journal of Hospital Infection (2014) 86, 42-46
背景
メチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive Staphylococcus aureus;MSSA)は手術部位感染症(SSI)の原因となることが多いが、単一曝露によるアウトブレイクが認識されることはまれである。
目的
胸部外科部門における MSSA SSI のアウトブレイクについて記述すること。
方法
フシジン酸耐性 MSSA(MSSA FusR)による 2 件の術後菌血症の発生後に、アウトブレイク調査を開始した。微生物検査記録および前向き症例検出により MSSA FusR 保菌患者の特定を行った。医療従事者のスクリーニングを実施した。ファージ型別、spa タイピング、パルスフィールド・ゲル電気泳動、および毒素遺伝子プロファイリングにより分離株の特性を評価した。症例対照研究により、MSSA FusR を保菌する医療従事者1名とアウトブレイク患者との関連を調査した。
結果
16 か月間で MSSA FusR 保菌患者 19 例が特定された。タイピングを行った 4 つの分離株は、いずれも同一の系統に属することが示された。医療従事者 76 名のスクリーニングを実施し、1 名(乾癬を有する看護師)がアウトブレイク株を保菌していた。19 例の全症例がこの医療従事者への曝露を受けていたのに対して、対照者群では 66 例中 40 例のみであり(P = 0.003)、また症例群のほうが曝露期間が長期であった(P = 0.00001、χ2 傾向検定)。症例 15 例では、この医療従事者と直接的な接触があったことがカルテに記録されていた。病棟の徹底的なクリーニングと、当該医療従事者を臨床業務から除外することによって、アウトブレイクは終息した。
結論
乾癬を有する医療従事者が本アウトブレイクの発生源であった。MSSA におけるフシジン酸耐性は、その保菌が皮膚の状態と関連する株の指標である可能性がある。皮膚の状態に問題がある医療従事者は、外科病棟での感染リスクを有すると考えられる。労働衛生担当チームには、皮膚炎を有する医療従事者を対象としたスクリーニングを実施することを推奨したい。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant S. aureus;MRSA)や多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa;MDRP)が院内で水平伝播するのなら、MSSA や感受性のよい緑膿菌も、微生物としては同じなのだから、同様に院内で水平伝播することがあるのではないだろうか。
ふと考えれば当たり前の疑問を証明したのが本論文である。もちろん薬剤耐性菌はひとたび感染症を起こすとその治療は難渋する。しかし薬剤感性菌だからといって水平伝播してよいわけではない。だからこそ標準予防策が重要なのである。
もう一点、本論文は医療従事者のスクリーニングにより皮膚疾患をもつ医療従事者の MSSA 保菌が明らかになり、臨床業務から除かれるという結論に到る。さらに筆者らは、皮膚疾患をもつ医療従事者のスクリーニングを推奨している。しかし、医療従事者の耐性菌保菌調査は、あらかじめ陽性者への対応や倫理的問題をしっかり議論したうえで行う必要があろう。
蛇足であるが、本研究はアウトブレイク調査を行ううえで最も基本となる症例対照研究であり、その手法を学び、自身の業務に活かせるという意味でも一読の価値のある論文である。
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