インフラに課題があるシンガポールの 3 次急性期病院における高度地域的流行中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の持続的制御★★
Sustained meticillin-resistant Staphylococcus aureus control in a hyper-endemic tertiary acute care hospital with infrastructure challenges in Singapore
D. Fisher*, P.A. Tambyah, R.T.P. Lin, R. Jureen, A.R. Cook, A. Lim, B. Ong, M. Balm, T.M. Ng, L.Y. Hsu
*National University Health System, Singapore
Journal of Hospital Infection (2013) 85, 141-148
背景
1980 年代以降、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)はシンガポールの病院に定着しており、995 床の当大学病院の感染症症例数は、重複なしで毎年 600 例を超える(菌血症エピソードは 120 件)。当院の病床の約 5%は隔離設備として使用されている。
目的
導入区域を徐々に病棟全体に拡大していった MRSA 制御バンドルの効果を調査すること。
方法
バンドルの内容は、病棟単位での MRSA 獲得を特定するための入院時、病棟からの転送時、および退院時の積極的サーベイランス、MRSA 感染患者の隔離およびコホーティング、手指衛生強化の取り組み、MRSA 獲得および手指衛生遵守率の公表フィードバックなどであった。バンドルの導入には 2006 年 10 月から 2010 年 6 月の期間をかけ、インフラ性能の漸次的改善のためのリードタイムを設けるとともに、感染予防に関する職員の意識改革を図った。分割時系列分析により、結果の解析を行った。
結果
MRSA 感染症はバンドル導入期間の中途から減少し、MRSA 菌血症は 2004 年第 1 四半期の 1,000 入院患者日あたり 0.26 件(95%信頼区間[CI]0.18 ~ 0.34)から 2012 年第 1 四半期の 1,000 入院患者日あたり 0.11 件(95%CI 0.07 ~ 0.19)に減少した。MRSA 獲得率はプログラム完全導入の 1 年後まで低下し、一方、手指衛生遵守率は 2009 年第 1 四半期の 47%(95%CI 44% ~ 49%)から 2012 年第 1 四半期の 69%(95%CI 68% ~ 71%)に有意に上昇した。
結論
MRSA バンドルの段階的導入は高度地域的流行中の施設で成功し、持続可能であり、同様の環境への適用が可能なモデルの 1 つと考えられた。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
2006 年に数か所で開始した MRSA バンドルを、約 4 年かけて全病院に拡大し、その評価を行った論文である。MRSA バンドルおよび評価指標について大変詳しく記載されており、筆者らが結論で記載しているように、対策のモデルとなる。感染対策に近道やウルトラ C はなく、粛々とかつ確実にバンドルを実行し、丁寧に評価を行うのが王道であると教えてくれる論文である。一読をお勧めする。
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