入院時のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の低保菌率:リスク因子に基づくスクリーニングとユニバーサルスクリーニングにおける意義の比較★★
Low prevalence of meticillin-resistant Staphylococcus aureus carriage at hospital admission: implications for risk-factor-based vs universal screening
J.A. Otter*, M.T. Herdman, B. Williams, O. Tosas, J.D. Edgeworth, G.L. French
*King’s College London, Guy’s and St. Thomas’ Hospital NHS Foundation Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2013) 83, 114-121
背景
入院時のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌の検出に関する最適な方針については意見が分かれている。市中獲得型 MRSA(community-associated MRSA;CA-MRSA)の出現は、医療関連 MRSA(healthcare-associated MRSA;HA-MRSA)に関するリスク因子に基づく標的を絞ったスクリーニング戦略の妨げとなる可能性がある。
目的
入院時の MRSA 保菌率と、その分離株の遺伝子型および分子疫学を明らかにすること。
方法
ロンドンの 1,200 床の 3 次紹介病院で、2008 年 4 月 1 日から 2009 年 3 月 1 日の 12 か月間、観察研究を実施した。採取したすべての MRSA 分離株の spa およびブドウ球菌カセット染色体 mec(SCCmec)タイピングによる遺伝子型判定を行った。
結果
全体的な MRSA 保菌率は、入院患者 28,892 例中 2.0%(範囲は重症管理部門の 6.6%から産科・婦人科・新生児科の 0.8%)であった。入院時に未知の MRSA 保菌の全体的な検出率は 1.4%であった。最も多い保菌株は流行性 HA-MRSA-15 および 16 であった。しかし、回収された分離株の 18%は種々の CA-MRSA 株であり、このうち 37.5%の MRSA は救急部門、23.1%は外科部門から分離されたものであった。CA-MRSA 株の疫学的特性は HA-MRSA 株とは大きく異なっており、したがって HA-MRSA の同定に用いられるリスク因子では、高い信頼性をもって CA-MRSA を検出できないと考えられる。
結論
英国では HA-MRSA 保菌率が低いため、CA-MRSA 保菌率が相対的に高くなっており、CA-MRSA に対しては従来のリスク因子に基づくスクリーニング戦略の効果は低いと考えられる。MRSA を対象とした入院時ユニバーサルスクリーニングの費用対効果分析にあたっては、この新たな疫学的所見を考慮する必要がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
MRSA の疫学的、分子疫学的な基本知識を再確認し、そのうえでリスク分析ができ、加えて、統計解析、結果や考察のまとめ方など、参考になることが多い論文である。読むことをお薦めする。
以下は MRSA の基本情報である。MRSA がβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すのは PBP2′ という酵素産生による。PBP2′ 産生をつかさどる遺伝子が mecA 遺伝子で、MRSA の染色体 DNA には、MSSA には存在しない(= 外来性)SCCmec と呼ばれる DNA 断片が挿入されている。mecA 遺伝子はこの SCCmec 上に存在する。HA-MRSA と CA-MRSA の違いの 1 つは SCCmec であり、薬剤感受性では、HA-MRSA の多くは多剤耐性を示すのに対し、CA-MRSA はβ-ラクタム系抗菌薬以外には感受性を示す傾向がある。その一方、欧米を中心に分離されている CA-MRSA の多くは Panton-Valentine leukocidin(PVL)と呼ばれる白血球殺毒素を産生するが、HA-MRSA ではあまり産生されない。ちなみに、日本で分離される CA-MRSA はこれまでのところ、PVL 陰性株が主流を占めている。
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