ベンチマークとするにはほど遠い:手術部位感染の全国サーベイランスの結果★

2013.02.28

A benchmark too far: findings from a national survey of surgical site infection surveillance


J. Tanner*, W. Padley, M. Kiernan, D. Leaper, P. Norrie, R. Baggott
*De Montfort University, UK
Journal of Hospital Infection (2013) 83, 87-91
背景
イングランドの手術部位感染(SSI)の全国サーベイランスサービスでは SSI 発生率を整理・公表し、ベンチマーキングおよび SSI 有病率の算出に供している。しかし、質の高い SSI サーベイランス法を用いた調査研究による報告では、SSI発生率は全国サーベイランスサービスの公表よりもはるかに高い。このばらつきは、全国サービスで収集されたデータの妥当性に疑問を呈するものである。
目的
イングランドの病院トラストで用いられている SSI の定義およびデータ収集方法を監査すること。
方法
イングランドの 156 のすべての病院トラストに対して、SSI の定義およびデータ収集方法に関する質問票を送付した。
結果
106 の病院トラストから記入済み質問票を回収した。データ収集方法およびデータの質には大きな相違があり、報告された SSI 率にばらつきをもたらしていた。例えば、膝関節置換術での SSI 発生率は、質の高い退院後サーベイランスを行っていたトラストでは 4.1%、質の低い退院後サーベイランスを行っていたトラストでは 1.5%であった。全国サーベイランスのプロトコールと定義に反して、トラストの 10%は表層感染症のデータを提出しておらず、15%は推奨されている SSI の定義を使用しておらず、8%は入院患者のデータのみを使用していた。30 のトラストは、自院のデータの完全なセットを全国サーベイランスサービスに提出していなかった。提出されていないデータは、非義務的データ、退院後サーベイランスデータ、および継続的サーベイランスデータなどであった。
結論
全国サーベイランスサービスは SSI 発生率を過小評価しており、ベンチマーキングには適切でない。質の高い SSI サーベイランスを実施している病院では、現行のサーベイランスサービスの枠内では自院に不利なデータが出ることになると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
本論文では、病院へのアンケートにより英国の SSI サーベイランスの信頼性を確認している。今回の解析では、より実態を反映するサーベイランスのためには post discharge surveillance(PDS)と呼ばれる退院後サーベイランスデータのさらなる活用が重要であることが強調されていた。公衆衛生分野では、サーベイランスの評価をする時の指標に以下の 7 つがある。すなわち simplicity、flexibility、acceptability、sensitivity、predictive value positive、representativeness、timeliness である。この項目に沿って結果を読んでみると、自施設のサーベイランスを再確認するチャンスにもなると思われる。

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K. Steinhauer*, T.L. Meister, D. Todt, A. Krawczyk, L. Paßvogel, B. Becker, D. Paulmann, B. Bischoff, S. Pfaender, F.H.H. Brill, E. Steinmann

*Schülke & Mayr GmbH, Germany

 

Journal of Hospital Infection (2021) 111, 180-183