スペイン南部で菌血症を引き起こしているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の臨床疫学および分子疫学
Clinical and molecular epidemiology of meticillin-resistant Staphylococcus aureus causing bacteraemia in Southern Spain
C. Velasco*, L.E. López-Cortés, F.J. Caballero, J.A. Lepe, M. de Cueto, J. Molina, F. Rodríguez, A.I. Aller, A.M García Tapia, J. Pachónc, Á. Pascual, J. Rodríguez-Baño; SAEI/SAMPAC MRSA-BSI Group
*Universidad de Sevilla, Spain
Journal of Hospital Infection (2012) 81, 257-263
背景
侵襲性感染症の原因となるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)分離株の分子的特性の一部は、臨床的に重要であることが示されている。広範な地域で MRSA クローンが優勢になりつつあるが、クローンのシフトが生じる可能性があるため、分子的データと臨床的データを組み合わせてこれらの状況をモニターする必要がある。
目的
スペイン・アンダルシア地方の 10 病院の院内感染および医療関連感染による MRSA 菌血症患者 98 例の後向きコホートを対象として、疫学的特性および分子的特性を調査すること。
方法
分離株の関連性を、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)、spa タイピング、および clonal complex(CC)assignment により調べた。ブドウ球菌カセット染色体 mec(SCCmec)のタイプおよび arg のグループを PCR 法により明らかにした。arg の機能を評価した。
結果
大半の分離株は CC5、SCCmec IV 型、arg グループ II であった。主な spa タイプは t067 であった。6 つの主要なクラスターが PFGE により特定された。同一の PFGE サブタイプの分離株に感染している疫学的関連性を有する症例の 6 つの小さなクラスターが特定された。E-test では分離株の 44%はバンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)が 1 μg/mL を超えていたが、微量液体希釈法では分離株の 5%は MIC が 2 μg/mL であった。E-test で MIC > 1 mg/L と関連する独立因子は、現在の入院中の手術および Charlson 指数※ ≧ 2 であった。
結論
スペインで過去 10 年間にわたって優勢であった特定の CC が、本試験の大半の症例の菌血症の原因であった。疫学的関連のある症例のクラスターを特定するためには、PFGE は spa タイピングよりも識別能が高かった。いくつかの患者特性が、E-test によるバンコマイシンの MICが 1 mg/L を超えることと関連していた。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
院内感染対策を目的とした MRSA の分子疫学解析は、感染源や感染経路の推測や確認に極めて重要である。本論文の結論にもあるように、PFGE は spa タイピングに比して検査に要する時間は長くなるものの、その解析能は高く、クラスターの検出に有用な方法である。ただし、疫学調査においては分子疫学は実地疫学の結果とともに解析されることでその有用性が発揮されることは覚えておきたい。また近年では、multilocus-sequence typing(MLST)法による型別に基づく clonal complex 解析という手法が広域の地域間での流行株の比較に汎用されるようになってきていることに注目したい。
監訳者注:
※Charlson 指数(Charlson index):併存疾患の指標で、数字が大きいほど重症度が高くなる(0~33)。
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