インフルエンザ(H1N1)2009 パンデミック時の 3 か国の病院感染制御対策実践の遵守状況の相違★

2012.06.30

Differences in the compliance with hospital infection control practices during the 2009 influenza H1N1 pandemic in three countries


J.S.Y. Chor*, S.K. Pada, I. Stephenson, W.B. Goggins, P.A. Tambyah, M. Medina, N. Lee, T.-F. Leung, K.L.K. Ngai, S.K. Law, T.H. Rainer, S. Griffiths, P.K.S. Chan
*The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong
Journal of Hospital Infection (2012) 81, 98-103
背景
世界保健機関(WHO)は 2009 年 12 月、医療環境におけるインフルエンザ(H1N1)ウイルスの防御に関する改訂ガイドラインを発表した。2010 年の WHO によるパンデミックインフルエンザの警戒レベルは依然としてフェーズ 6 であった。
目的
インフルエンザ(H1N1)2009 パンデミック時の 3 か国の医療従事者の感染対策の実践状況について調査すること。
方法
2010 年に、香港、シンガポール、および英国の病院の 120 の診療科の医師、看護師を含む医療従事者を対象として、標準化された無記名の自記式質問票による調査を行った。質問項目は、人口統計学的特性、インフルエンザの既往および自己評価による重症度、感染対策の実践状況、季節性インフルエンザおよびインフルエンザ(H1N1)のワクチン接種についてであった。多重ロジスティック回帰により、種々の因子との独立した関連の検定を行った。
結果
3 か国の医療従事者合計 2,100 名が研究に参加した。参加者らの報告では、手袋の着用・交換や患者との接触前後の手洗いなどの、飛沫感染予防策の遵守率は高かった(> 80%)。しかし、患者との間接的接触時および直接接触時のマスク(所属施設で使用が義務化されているサージカルマスクまたは N95 マスク)の使用の報告には、かなりのばらつきがみられた(それぞれ、香港 96.4%、70.4%、シンガポール 82.3%、87.7%、英国 25.3%、62.0%)。報告された遵守と、職種、患者との接触回数、およびパンデミックの重大性への認識との間に関連が認められた。季節性インフルエンザまたはインフルエンザ(H1N1)2009 のワクチン接種と遵守との関連は認められなかった。
結論
パンデミックインフルエンザに対する感染制御対策の遵守率は、状況によって大きく異なると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
奇しくもこの 3 か国は SARS を経験した国であり、国の感染管理ガイドラインやその遵守の充実は想像に難くないと思われた。実際、手洗い遵守率はいずれの国も 90%前後と大変高率であったが、一方、マスクの使用には大きな差がみられた。これは、各国の医療環境(ベッドの間隔など)や感染対策ガイドラインの違いによるものが大きいとも考えられる。マスクと手洗いに焦点を絞った質問票の内容は、我々が地域の感染対策の状況を共有するときに参考になる。
気になった点としては、この研究では、3 か国で約 6,100 人に質問票を配布したが、シンガポール、英国は 94%以上と、この種類の調査ではすばらしいほどの高い回収率であったのに比し、研究者の自国である香港の回収率が 27%と低かったことである。

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