消毒:Spaulding 分類を見直すべき時期か?★★
Disinfection: is it time to reconsider Spaulding?
G. McDonnell*, P. Burke
*STERIS Limited, UK
Journal of Hospital Infection (2011) 78, 163-170
Spaulding 分類は 1957 年に最初に提唱されたが、表面の消毒および滅菌の方法、特に再利用可能な医療器材・外科用器材について、実際に利用可能な処理方法との組み合せを示しており、広く用いられている。Spaulding 分類では、器材の使用方法に関連したリスクを「クリティカル(高リスク)」から「セミクリティカル」、「ノンクリティカル(低リスク)」に分類して、これらに基づく器材の再処理時に考慮すべき処理方法を、低水準消毒から滅菌までに順位付けをしている。消毒水準の相違は、各種の病原体を代表する確立された指標微生物に対する抗微生物活性の評価に基づいている。現在でもこの分類システムは 1957 年の時点と同様に妥当であると考えるが、微生物学と微生物に関する知見は当時から変化している。この論文では、高水準、中水準、低水準の消毒に関する現在の定義と期待される効果の正当性に異論を唱える、ウイルス、細菌、原虫およびプリオンの消毒に関する研究の一部を取り上げて議論する。これらの研究の多くでは、試験対象となった微生物は消毒処理に対して非典型的な抵抗性または耐性の性質を示した。実験室レベルの研究だけではなく、少なくともこれらの微生物の一部で、殺生物剤耐性による予期しない消毒の失敗によって感染症アウトブレイクが生じた可能性がある臨床的なエビデンスが示されている。これらの報告は読者に対して、現在の定説に疑問を呈し、消毒・滅菌への期待を再考するべきであることを促すものである。
監訳者コメント:
一応、念のため、清潔要求度(Spaulding 分類)に応じた消毒薬の使い方を確認しておくと、クリティカル器具とは、体内の無菌部位に埋め込まれる器具や血液と長時間にわたり接触する器具で、原則としては滅菌が必要である。滅菌できない器具にはウォッシャー・ディスインフェクターによる高温洗浄処理が推奨される。専用の洗浄装置がない場合は、流水による用手的予備洗浄により血液などの有機物を可視的に完全に除去した後、2.25%(w/v)グルタラールに室温で 1 時間以上の浸漬消毒などの化学滅菌を試る場合が多い。セミクリティカル器具とは、粘膜および創のある皮膚と接触する器具であり、高水準消毒薬(フタラールや過酢酸)による処理が適当となる。セミクリティカル器具の代表である内視鏡の洗浄・消毒は、自動洗浄器の使用が一般的であるが、洗浄により有機物の汚染を除去した後、高水準消毒薬への浸漬消毒とする。消毒した後のすすぎは滅菌水を使うことが望ましい。創のある皮膚に接触する可能性がある体温計などには中水準消毒薬が必要で、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒する。また、ノンクリティカル器具とは創がない正常な皮膚とのみ接触する可能性がある器具で、聴診器、血圧測定用カフ、ベッド枠やリネン類、ベッドサイドテーブルなどが該当する。これらノンクリティカル器具から病原微生物が水平伝播される可能性は極めて低く、低水準消毒薬(両性界面活性剤、四級アンモニウム塩、クロルヘキシジンなど)による処理または水拭きでよい。
微生物の側から消毒薬への抵抗性を順に並べてみると、最も抵抗性が強いのはプリオンであり、以下、細菌芽胞(Clostridium 属や Bacillus 属など)、原虫接合子嚢(Cryptosporidium 属、など)、蠕虫卵(回虫や蟯虫など)、抗酸菌(結核菌[Mycobacterium tuberculosis ]など)、小型・非エンベロープ性ウイルス(ポリオウイルスやパルボウイルスなど)、原虫嚢(Giardia 属や Acanthamoeba 属など)、真菌胞子(Aspergillus 属や Penicillium 属など)、グラム陰性桿菌、生長期にある(vegetative)真菌、生長期の蠕虫・原虫、大型・非エンベロープ性ウイルス(アデノウイルスやロタウイルスなど)、グラム陽性球菌の順となり、最も消毒薬への感受性がよいのはエンベロープ性ウイルス(HIV、B 型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス)とされている。高水準消毒は細菌芽胞までカバーすることが求められるが、中水準消毒は抗酸菌あたりまで、低水準消毒は一般細菌あたりまでのカバーが期待される。
臨床的に広く活用されており、体系的な理解も得やすい Spaulding 分類は、引き続いて消毒・滅菌の基本としての重要な位置を占めると考えるが、プリオンなどの新しい病原体や新しい知見に基づく知識のブラッシュアップが必要であることは言を待たない。
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