香港の看護師および一般集団が保菌している黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の生体消毒薬耐性遺伝子保有率
Prevalence of antiseptic-resistance genes in Staphylococcus aureus and coagulase-negative staphylococci colonising nurses and the general population in Hong Kong
M. Zhang*, M.M. O’Donoghue, T. Ito, K. Hiramatsu, M.V. Boost
*The Hong Kong Polytechnic University, Hong Kong SAR, China
Journal of Hospital Infection (2011) 78, 113-117
ブドウ球菌の殺生物剤感受性の低下は、流出蛋白質(efflux protein)をコードしている四級アンモニウム化合物(qac)遺伝子と関連がある。本研究では、看護師および非医療従事者が保菌しているブドウ球菌の生体消毒薬耐性遺伝子(qacA/B、smr)の保有率を比較した。看護師 249 名から分離した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の qacA/B および smr の陽性率を、非医療従事者の保菌者由来分離株と比較した。qac 遺伝子と抗菌薬耐性との関連を調べ、塩化ベンザルコニウムおよびクロルヘキシジンの最小発育阻止濃度(MIC)と最小殺菌濃度(MBC)を測定した。看護師由来のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌は両遺伝子の保有率が一般集団由来よりも高く(オッズ比[OR]8.4、95%信頼区間[CI] 5.4 ~ 13.2)、看護師由来の黄色ブドウ球菌分離株には qacA/B が一般集団由来よりも高い頻度で認められた(OR 5.5、95%CI 2.7 ~ 11.2)。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の保菌率は低かった(看護師 3.2%、一般集団 0.5%)。黄色ブドウ球菌およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の qacA/B および smr の保有リスクは、mecA の保有(OR 2.9、95%CI 1.8 ~ 4.8)および MRSA 感染患者との接触(OR 2.0、95%CI 1.0 ~ 3.9)と関連していた。qac 遺伝子を保有する黄色ブドウ球菌は抗菌薬耐性が有意に強く、遺伝子陽性の分離株はいずれも生体消毒薬に対する MIC および MBC が高値であった。看護師由来ブドウ球菌の生体消毒薬耐性遺伝子保有率が高いことは、病院環境がこれらの菌株保菌の選択圧となり得ることを示している。MRSA 陽性患者との接触者の遺伝子陽性菌保菌率が高いことから示唆されるように、メチシリン耐性菌株の qac 遺伝子保有率が高いことは、これらの遺伝子には選択圧が同時に働いていることを示唆している。生体消毒薬感受性の低下は、低濃度の残留生体消毒薬中での微生物の生存を可能にするとともに、MRSA の生残に寄与する可能性がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
生体消毒薬耐性遺伝子に関する詳細な検討はこれまであまり行われていない。MRSA の臨床分離株、とりわけ医療従事者のスクリーニングにより得られた株の消毒薬感受性低下につながる耐性遺伝子は、注意が必要な要因であると考える。一方、医療従事者が保菌に至る要因は明らかになっておらず、本論文の知見に基づいてどのような対策を取るべきであろうか。難しい問題である。
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