セファロスポリン高度耐性腸内細菌科細菌性人工呼吸器関連肺炎:コホート研究に基づく予後因子★
High level cephalosporin-resistant Enterobacteriaceae ventilator-associated pneumonia: prognostic factors based on a cohort study
C. Aubron*, A. Chaari, R. Bronchard, L. Armand-Lefevre, P. Montravers, B. Regnier, M. Wolff, J.-C. Lucet
*Universite Xavier-Bichat, France
Journal of Hospital Infection (2011) 77, 64-69
I 型誘導性染色体性 β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌のセファロスポリン高度耐性が、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の転帰に及ぼす影響は依然として不明である。高レベル AmpC(HL-AmpC)産生腸内細菌科細菌による VAP の予後因子を特定するために、2 つの集中治療部門(ICU)で 4 年間にわたる後向きコホート研究を実施した。この研究の対象は I 型誘導性染色体性 β-ラクタマーゼを産生する腸内細菌科細菌による VAP 患者 75 例とした。これらの VAP エピソードの 3 分の 1 が HL-AmpC 産生腸内細菌科細菌によるものであった。ICU 入室時の人口統計学的特性および臨床的特性は、腸内細菌科細菌の感受性にかかわらず患者間で同等であった。しかし、HL-AmpC 産生腸内細菌科細菌による VAP 患者のほうが、発症前抗菌薬投与の頻度が高く、また疾患重症度および臓器機能不全スコアが高かった。エンテロバクター(Enterobacter)属が HL-AmpC を産生する主要な VAP の起因菌であった。HL-AmpC 産生腸内細菌科による VAP はまれである。セファロスポリン高度耐性は、VAP 発症時の疾患重症度が高いことと関連していたが、28 日死亡率が高いこととは関連していなかった。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
腸内細菌科(Enterobacter)細菌とは、大腸菌(E. coli)などの腸内細菌に代表される通性嫌気性グラム陰性桿菌であり、分類上の 1 つのグループである。一方、β-ラクタム系抗菌薬を分解する酵素である β-ラクタマーゼは、アミノ酸配列に基づく Ambler 分類によりクラス A からクラス D に分類される。その中でクラス A、C、D に属する β-ラクタマーゼは、活性中心にセリン残基を有するセリンペプチダーゼであり、一方、クラス B は活性中心に亜鉛分子を要求するメタロ-β-ラクタマーゼである。クラス A および D の中で第 2、3、4 世代セファロスポリン薬までを分解する能力を獲得した場合を特に基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)といい、細菌の染色体のみならずプラスミド上にもコードされることから、異なる菌株や菌種にさえ耐性因子が伝播されてしまう特徴がある。また、これらに加えて、クラス C に分類される β-ラクタマーゼの中に、腸内細菌科やブドウ糖非発酵菌の染色体上に存在して、セフェムの存在下でその大量産生が誘導されることから第 2、3、4 世代セファロスポリン薬まで分解する AmpC があり、抗菌薬投与により誘導される耐性であることから注意が必要である。なお、わが国では現状で AmpC 産生菌は少ないと考えてよい。
なお、ESBL 産生菌および AmpC 産生菌に対して、ほとんどの場合でカルバペネム系が有効であるが、最近では北米大陸などからクラス A に属するプラスミド性のカルバペネム分解酵素 KPC が報告されており、肺炎桿菌(K. pneumoniae)による産生菌が多いが、その他の腸内細菌科にも耐性伝播を示しており、世界的にも拡大する傾向があることから注意が必要である。
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