フランスの大学病院における多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の分子疫学★★

2010.12.31

Molecular epidemiology of multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa in a French university hospital


P. Cholley*, H. Gbaguidi-Haore, X. Bertrand, M. Thouverez, P. Plesiat, D. Hocquet, D. Talon
*Centre Hospitalier Universitaire Besancon, France
Journal of Hospital Infection (2010) 76, 316-319
本研究の目的は、当大学病院における多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosaの発生率および分子疫学の評価である。抗菌薬感受性プロファイリング、bla遺伝子の特定、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行った。1年間の研究期間中に緑膿菌陽性サンプルが1回以上認められた患者は654例であり、このうち38例(5.8%)に多剤耐性株の保菌・感染が確認され、発生率は1,000患者日あたり0.1例であった。重複を除いた38株のパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンは12種類であり、このうち3パターンはいずれも4例の患者の分離株、1パターンは15例の患者の分離株に認められた。2株は基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生株であった(1株はOXA-14、他の1株はOXA-28)。遺伝子タイピングにより、多剤耐性緑膿菌感染症例の約70%が交差伝播によるものであることが示されたが、時空間分析ではこれらの多くがいつ生じたのかを明らかにすることはできなかった。上記の大流行性クローンと主な3種類の小流行性※※クローンは、当院にすでに存在していたものと考えられ、感受性の高い遺伝子型を有していた。当院では何種類かの緑膿菌クローンが局地的に流行しており、抗菌薬の選択圧により、これらのクローン内で多剤耐性株が出現していると考えられる。以上の結果から、多剤耐性緑膿菌伝播の主な原因は交差伝播であることが示され、標準的な衛生学的予防策の改善を優先すべきことが示唆された。
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監訳者コメント
分子疫学のお手本的な論文。多剤耐性菌の院内伝播を明確にする点で参考になる論文である。結果自体は、おそらくどの施設でも発生している交差伝播であり特に目新しいものではないが、そのことを分子疫学的手法で示すことに意義がある。また、多剤耐性菌の伝播防止には、手指衛生をはじめとする標準予防策の重要性を改めて感じさせられる。
監訳者注:
多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa):日本では一般にカルバペネム・キノロン・アミノグリコシドの3系統にすべて耐性のものを指すが、本研究ではこれらのうち1剤には感性、すなわち2剤耐性のものも含めて「多剤耐性緑膿菌」としている。
※※小流行性(micro-epidemic):本研究での定義は、同一のPFGEパターンの分離株が2~5例の患者に認められること。

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