市中獲得型のPanton-Valentine leucocidin産生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus;PVL-MRSA)の市中・院内感染:医療上の意義★
Community and nosocomial transmission of Pantone-Valentine leucocidin-positive community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus: implications for healthcare
J.M. Orendi*, N. Coetzee, M.J. Ellington, E. Boakes, B.D. Cookson, K.J. Hardy, P.M. Hawkey, A.M. Kearns
*University Hospital of North Staffordshire NHS Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2010) 75, 258-264
英国では、市中獲得型のPanton-Valentine leucocidin産生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus;PVL-MRSA)感染症の散発例が報告されている。2006年9月に、帝王切開後のフィリピン人医療従事者に致死的なPVL-MRSA感染症が発生した。市中および病院の接触者から、咽頭および鼻腔スワブを採取した。PVL-MRSA株と同様の薬剤耐性パターンを示すMRSAに対しては、毒素遺伝子プロファイル、PCRとシークエンスタイピング(ST)法によるタイピングなどの評価を行った。保菌者には除菌治療を行い、医療従事者に対しては本人とその家族がPVL-MRSA陰性と判定されるまで患者ケアへの従事を制限した。ST30型PVL-MRSAはプロテインA遺伝子(spa)タイプt019、SCCmec-IVc、agr-3を有しており、β-ラクタム系抗菌薬のみに耐性を示した。さらに16例の市中・病院感染者から、同系統の代表株が同定された。12例でPVL-MRSAが原因と考えられる感染症が発生し、そのうち2例(1例は致死的)は病院感染、1例は医療従事者の職業感染と考えられた。9例が病院に勤務していた看護スタッフであり、このうち8例は過去5年間にフィリピンから移住し、社会的に強い関係があった。このように、英国の医療従事者からST30型PVL-MRSAが検出された。これは、英国における致死性のパンデミッククローンの院内感染の初めての報告である。この新たな脅威に対応するため、医療・市中環境で警戒を強化する必要がある。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
白血球溶解毒素であるPVLは、市中獲得型MRSAについては、米国で小児の命を次々に奪って有名になったUSA300株に見られて注目を集めた特徴的な毒素であり、壊死性肺炎など重篤な感染症に至らしめる。しかしながら、USA300はST8クローナルクラスター(CC)に属し米国に特異的に分布しているのに対し、今回英国で見つかったPVL産生MRSAは、英国ですでに広く分布しているEMRSA16と同じST30型のCCに属することが問題になっている。つまり、すでに遺伝子の乗り物であるMRSA自体が広まってしまっているために、今後、PVLを運ぶファージが溶原化することでPVLを産生するEMRSA16が猛烈な勢いで市中に増加する可能性があることを示唆している(科学者か、細菌学者でないとこれは理解が困難な論文です)。
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