3次医療施設の入院患者から7年間にわたって分離されたバンコマイシン耐性腸球菌の特性★

2010.04.11

Characterisation of vancomycin-resistant enterococci from hospitalised patients at a tertiary centre over a seven-year period


C.-M. Chang*, L.-R. Wang, H.-C. Lee, N.-Y. Lee, C.-J. Wu, W.-C. Ko
*National Cheng Kung University Hospital, Taiwan
Journal of Hospital Infection (2010) 74, 377-384
1999年から2005年に台湾南部の単一医療施設で、41例の患者からバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が分離された。これはEnterococcus属菌の臨床的保菌または感染を認める患者7,449例の0.55%に相当する。このうち9例(22%)はVREによる臨床的感染であった。VRE分離株のうち25株(61%)はVanA表現型およびvanA遺伝子クラスターを有するエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)で、残りの16株(39%)はVanB表現型およびvanB(15株)またはvanA(1株)遺伝子クラスターを有するエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であった。esp遺伝子クラスターはE. faecalis分離株6株(24%)およびE. faecium分離株14株(87.5%)に認められ、hyl遺伝子クラスターがE. faecalis分離株2株(8%)およびE. faecium分離株6株(37.5%)に認められた。パルスフィールド・ゲル電気泳動法によるSmaI切断DNAの解析では、E. faecalis分離株のほとんどが異なるクローンであったが、これはヒトからヒトへの伝播は限定的であること、または伝播が散発的であることを示している。一方、VanB表現型E. faecium分離株15株中10株(67%)は同一のクローンであり、これは病院内でクローンの潜在的および限定的な伝播が生じたことを示唆している。esp遺伝子またはhyl遺伝子の存在と、VREの病原性またはアウトブレイクとの関連はみられなかった。まとめとして、疫学的データおよび分子タイピングにより、外科ICUにおけるVanB表現型およびvanB遺伝子型を有するE. faeciumのクローンの潜在的な伝播、およびE. faecalisのヒトからヒトへの限定的な伝播または散発的な伝播が生じたことが示唆された。想定されるVRE伝播に対する感染制御対策が必要である。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
台湾におけるVREの分離頻度は低くない。2000年にはすでに院内分離菌の2%弱を占めており、単一施設からのデータではあるが2003年には6.1%という報告もあると本論文に述べられている。このような状況のもと、単一施設で分離されたVREを分子疫学的手法により院内伝播に関して検証している。予想されるとおり、VREの分離頻度がこれだけ高くなると、伝播が想定される事例とそうでない事例の双方がそれなりに見られた。伝播が想定されない事例は入院前から保菌者であったことが推定され、感染制御の困難さを感じさせる。日本はまだまだVRE分離頻度が低いので、台湾のような状況にならないよう、VREのサーベイランスとVRE保菌患者に対する厳重な接触予防策の必要性を感じる。

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