メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)全入院患者対象スクリーニング:国民保健サービス(NHS)スコットランド先駆的プロジェクトの中間結果★
Universal screening for meticillin-resistant Staphylococcus aureus: interim results from the NHS Scotland pathfinder project
J.S. Reilly*, S. Stewart, P. Christie, G. Allardice, A. Smith, R. Masterton, I. Gould, C. Williams
*Health Protection Scotland, UK
Journal of Hospital Infection (2010) 74, 35-41
医療技術評価(Health Technology Assessment;HTA)からの勧告に従って、スコットランドの3地域における急性期ケア病院6施設へのすべての入院患者(29,690例)を対象にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)に関するスクリーニングによる前向きコホート研究を実施した。その結果、入院時に患者の7.5%がMRSAを保菌していたことが示された。保菌に関連する因子は、再入院、入院病棟の専門科(最も高いのは腎臓内科、老年科、皮膚科、および血管外科)、高齢、およびどこからの入院であるかという点(介護施設または他の病院)であった。病院獲得型MRSA感染症を発症したのは、保菌が確認された患者で3%であったのに対して、非保菌患者は0.1%に過ぎなかった。保菌率が高い専門科の入院病棟ではMRSA感染率も高かった。スクリーニングを拒否した患者(11例、0.03%)および治療を延期した患者(14例、0.05%)はごく少数であった。医療施設としての問題点がいくつか判明したが、その中にはスクリーニング実施率(88%)や除菌実施率(41%)が不完全であることが含まれていた。除菌の実施が不完全であった原因は、主として入院期間が短かったことや検査結果が出るまでに要する時間であった。患者が他の病棟へ移動することから、HTAが推奨している高リスク病棟の患者だけでなく、すべてのMRSA陽性患者を対象に除菌を行うように決定されていた。また、MRSA患者を管理するための隔離設備が不十分であることも問題点の1つであった。この研究から、病院内のリスクを減少させるための除菌が、入院期間が短いために十分に実施できないという重大な問題が明らかとなり、また感染制御のための予防策が中心的役割を担うことが再確認された。MRSA全入院患者対象スクリーニングにおける費用および臨床上の有効性に関するHTAモデルを再び普及させるような新しい結論を下すためには、さらなる研究を行う必要がある。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
MRSA対策に積極的監視検査をどのような範囲で実施するべきなのか議論が続いているが、この論文で示されているように培養・同定までの約2日の期間が必要であることが、結果に基づいた対応に遅れを生じさせる点に注意が必要である。最近ではPCR検査などにより、より迅速にMRSAを同定する試みも報告されているが、そのコストを検討しなければならず、また、この論文にもあるように隔離のためのスペースが十分ではない点も議論しなければならない。いうまでもなく、積極的監視検査はMRSA保菌の有無を確認することに意義があるのではなく、その結果に基づいた対策によりMRSA感染症を減少させる結果に結び付けなければならない。
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