オランダの病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の疫学と伝播★★

2009.08.31

Meticillin-resistant Staphylococcus aureus epidemiology and transmission in a Dutch hospital


M.M.L. van Rijen*, T. Bosch, M.E.O.C. Heck, J.A.J.W. Kluytmans
*Amphia Hospital Breda, The Netherlands
Journal of Hospital Infection (2009) 72, 299-306
スカンジナビアおよびオランダの病院では、search and destroy(S&D)戦略の実施に伴い、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)発生率が低下している。本研究の目的は、オランダの病院におけるMRSAの疫学と伝播について述べることである。この記述的研究は、1年間に約4万件の入院を受け入れている教育病院で実施した。この病院では、MRSAのS&D戦略を過去数十年にわたって実施している。2001年から2006年にMRSAの疫学を調査した。この病院での伝播率を、(1)患者の既往歴、(2)他の患者または医療従事者との時間的・位置的関係、および(3)分子タイピング(パルスフィールド・ゲル電気泳動法およびSpaタイピング法)により算出した。患者82例と医療従事者13例の合計95名のMRSA保菌者を特定した。年間のMRSA発生率は研究期間中に3倍以上に増加しており、増加分のほとんどは動物由来MRSAによるものであった。患者のMRSA感染経路は23%が国外の病院、26%が動物から、16%が院内感染、4%がオランダの他の医療施設、10%がMRSA陽性者からの市中感染であり、22%は感染源が不明であった。医療従事者の感染経路は69%が院内感染、15%が国外の病院での勤務に関連しており、15%はMRSA陽性のパートナーまたは親族を介して保菌していた。伝播率は0.30(初発症例73例に対して二次感染者22例)であり、研究期間中にMRSAの拡大が抑制されていたことを示していることから、S&D戦略を継続すべきである。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
MRSAの拡大防止策としては、積極的にサーベイランス培養(ASC)を行って保菌者を探し出し除菌を行うsearch & destroy policy(S&D)と、ハイリスク患者に絞ってこれ以上伝播しないように管理しようというrisk assessment policy(RA)の2種類がある。前者はオランダとスカンジナビアで成功を収めているが、後者は米国・英国を含むほとんどの先進国で実施されているものの成功した国はない。S&Dが成功できる前提条件として、それほどMRSAが蔓延していない地域であることが求められるが、すでに米国や我が国は蔓延しているので、必然的にRAを選択せざるを得ない状況にある。すなわち、RAについては決定的な対策が出されていないことから、まだまだ我が国でのエビデンスを確立し、世界へ発信する余地が残されているということである。

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