小児腫瘍科におけるムコール症アウトブレイクの調査および管理

2008.09.30

Investigation and management of an outbreak of mucormycosis in a paediatric oncology unit


D. Garner*, K. Machin
*Nottingham University Hospitals NHS Trust, UK
Journal of Hospital Infection (2008) 70, 53-59
ムコール症は、免疫不全患者に多くみられる進行性の感染症であり、通常の治療を行ってもしばしば致死的となる。この論文では、大学病院の小児腫瘍科において、リネン保管庫と保護者用シャワー室の漏水後に発生した鼻脳型ムコール症のアウトブレイクについて報告する。簡易な環境サンプリング法を用いて、アウトブレイクの発生源を特定することができた。サンプリングにより、発生源と患者保護の両面にわたる感染制御対策の適時かつ適切な施行ができた。2症例がポサコナゾール治療を受け、癌管理に明らかな影響を及ぼすことなく完全に回復した。その他の15例の小児が感染症発症リスクが高いと判定され、ポサコナゾールの予防的投与を受けた。小児(1例は5歳児)にポサコナゾールによる有害事象は認められなかった。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
この論文では “ムコール症(mucormycosis)” と記載されているが、最近では “接合菌症 (zygomycosis)” とするのが一般的である。最も多い起因菌はクモノスカビ属(Rhizopus spp.)であり、実際にはケカビ属(Mucor spp.)は少ない。接合菌症には鼻脳型、肺型、消化管型、皮膚型などの病型が知られており、コントロールの悪い重症糖尿病を背景として鼻脳型接合菌症を認めることがあるが、ほとんどは血液疾患などの免疫不全症例で発症する。ポサコナゾールは日本国内ではまだ使用されていないが、接合菌症にも有効性が期待されている新しいアゾール系抗真菌薬である。
なお、環境からのサンプリングによる微生物検査は、ルーチンで実施する科学的な根拠は認められず、日常業務とするべきではないが、アウトブレイク調査としては有用であり、アウトブレイクを制圧するための対策を立案するのに有用な場合が少なくない。

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