手術部位感染の危険因子としての手術時間:英国と米国のデータの比較
Duration of operation as a risk factor for surgical site infection: comparison of English and US data
G. Leong*, J. Wilson, A. Charlett
*Centre for Infections, UK
Journal of Hospital Infection (2006) 63, 255-262
外科手術が長時間か短時間かを分類するために、T時間が用いられている。T時間は、手術部位感染のサーベイランスにおいて世界的に広く利用されている全米病院感染症サーベイランス(National Nosocomial Infection Surveillance;NNIS)のリスク指標の1つである。本研究の目的は、NNISのT時間を英国で収集されたデータと比較することとした。英国の外科手術部位感染症サーベイランスサービス(Surgical Site Infection Surveillance Service)は、1997年から2002年に実施された13分野にわたる外科手技に関して168の病院から収集したデータを保有している。英国のデータから75パーセンタイル値およびそれに対応するT時間を算出し、米国の時間と比較した。T時間の前後の手術部位感染率の差を比較した。グラフを用いて、手術部位感染リスクとの関連を示すカットポイント値を評価した。その結果、冠動脈バイパス術および血管手術を除く全手術分野において英国と米国のT時間は同じであり、冠動脈バイパス術および血管手術のいずれも、英国におけるT時間は4時間であった。股関節人工骨頭形成術の手術時間の75パーセンタイル値は、人工股関節全置換術より40分短かった。人工股関節全置換術の手術部位感染率は、T時間より長時間の手術では有意に高かったが(P<0.05)、股関節人工骨頭形成術では手術部位感染リスクとT時間(1時間、1時間半、または2時間に設定)との関連は認められなかった。結論として、ほとんどの分野でT時間を超える手術は手術部位感染症のリスクが増加していた。人工股関節分野については、人工股関節全置換術のみにおいてその関連がみられた。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
NNISシステムに沿ったSSIサーベイランスは世界中の多くの国で実施されている。その際にしばしば問題になるのが、国ごとの医療の相違による手術時間の相違を、リスクインデックスの一因子である手術時間のカットポイント(T値)にどう反映させるか、という点である。多くの国ではNNISのデータに基づくT値をそのまま使用しているが、本論文はその点に関して英国のデータを用いて検証した点で意義が大きい。
結論的にはあまり大きな差はなかったが、日本のデータでの検討では大きな差が認められる手術の種類もあり、今後も継続的に検証していく必要がある。
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