ルーチンの鼻腔内ムピロシン周術期予防投与導入後のムピロシン耐性のサーベイランス

2006.03.31

Surveillance for mupirocin resistance following introduction of routine peri-operative prophylaxis with nasal mupirocin


W.N. Fawley*, P. Parnell, J. Hall, M.H. Wilcox
*Leeds Teaching Hospitals and University of Leeds, UK
Journal of Hospital Infection (2006) 62, 327-332
著者らは以前、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の感染予防に、5日間の鼻腔内ムピロシンおよび局所的トリクロサン周術期予防投与(peri-operative prophylaxis regimen using nasal mupirocin and topical triclosan;PPNMTT)が奏効することを報告した。本論文では、ムピロシン耐性出現の有無を明らかにするため、鼻腔内ムピロシンのルーチンの周術期短期予防投与を実施する外科部門における点有病率に関する4年間の反復的サーベイランスの結果を報告する。PPNMTT開始前と開始後4年間の6カ月ごとに、整形外科病棟5カ所、血管外科病棟1カ所、および対照として老年病科病棟1カ所の全患者の鼻腔内における黄色ブドウ球菌の保菌について、点有病率サーベイランスを実施した。黄色ブドウ球菌のスクリーニングと臨床分離株採取(手術患者)を実施し、ムピロシン軽度耐性[最小発育阻止濃度(MIC)8~128 mg/L]および高度耐性(MIC>128 mg/L)を調べた。ムピロシン耐性株クローンが拡散したというエビデンスを判定するため、全分離株のファージ型別を行った。治療開始後に採取した患者の鼻腔内スクリーニングのスワブは、整形外科593件、血管外科139件、対照206件で、黄色ブドウ球菌分離株が検出されたのはそれぞれ28%、24%、48%(整形外科・血管外科対老年病科、P<0.001)、MRSA陽性は12%、11%、30%であった(P<0.001)。整形外科・血管外科の患者と対照患者由来の鼻腔内スクリーニングによる黄色ブドウ球菌分離株のうち、ムピロシン軽度耐性はそれぞれ5%と4%であった(P>0.1)。治療開始後に検出された黄色ブドウ球菌の臨床分離株286件(整形外科・血管外科)と68件(老年病科)のうち、ムピロシン軽度耐性はそれぞれ7%と9%であった(P>0.1)。ムピロシン高度耐性分離株は、ムピロシン使用病棟(整形外科・血管外科)の患者、および対照の老年病病棟患者のいずれからも分離されなかった。4年間の研究期間に、ムピロシン軽度耐性の罹患率が増加する傾向はみられなかった。ファージ型別の結果は耐性株クローンが拡散していることを裏づけるものではなかった。長期の追跡により、PPNMTTは整形外科および血管外科の患者の黄色ブドウ球菌とMRSAの鼻腔内保菌率低下に対して有効であることが確認された。4年間のPPNMTTにもかかわらず、ムピロシン耐性の持続的出現あるいは拡散を示すエビデンスはみられなかった。
サマリー 原文(英語)はこちら
監訳者コメント:
Wilcox MHら(J Hosp Infect 2003;54:196-201)の報告によると、ルーチンのムピロシンによる術前除菌の実施によりムピロシン耐性菌が検出されたとする論文もあることから、こうしたルーチンの抗菌薬の予防的処置に関しては慎重であるべきと考える。さらなる症例の積み重ねによるエビデンスが必要であろう。

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