英国の病院において抗菌薬使用に関するアドバイスの受け入れを妨げる障壁:質的研究★★

2016.08.13

Barriers to uptake of antimicrobial advice in a UK hospital: a qualitative study


J. Broom*, A. Broom, S. Plage, K. Adams, J.J. Post
*Department of Medicine, Sunshine Coast Hospital and Health Service, Australia
Journal of Hospital Infection (2016) 93, 418-422
背景
病院での感染症専門医および臨床微生物学者の役割は、抗菌薬耐性の増加に伴って拡大しており、病院での抗菌薬適正使用プログラムが開発され、広く用いられることにつながっている。これらの抗菌薬適正使用には多くの場合、使用に関する承認が含まれているが、院内での不適切な使用が続いていることから、技術的なアドバイスと院内での抗菌薬使用についてのロジックがかけ離れている可能性がある。
目的
抗菌薬の適正使用に関するガイダンスの観点から、英国の病院に勤務する医師の経験を調査すること、および処方後の口頭による使用承認プロセスの経験についても調べること。
方法
英国の一教育病院に属する 20 名の医師に半構造化面接を行い、抗菌薬の使用とガバナンスに関する自身の経験について回答を得た。内容をテーマ別に分け、NVivo10 ソフトウェアを用いて系統的な解析を行った。
結果
本研究で、抗菌薬の処方に関し、感染症専門医/臨床微生物学者と医師との関係において次の 3 つの主要なテーマが特定された:(1)組織のヒエラルキーが影響したことによる、感染症専門医/臨床微生物学者への能動的なコンサルテーションの制限、(2)感染症専門医/臨床微生物学者以外のコンサルタントが、臨床上の意思決定において有する当事者意識、および臨床上の自主性に対し異議を唱えるのではないかという懸念、(3)エビデンスに基づくプラクティスと、経験した事例からの教えと間の葛藤。
結論
本研究は、病院における感染症専門医/臨床微生物学者とそれ以外の臨床医との関係を調査する重要性を示すものである。そして、医療従事者間の関係をマネージするよりも、アドバイスすることにのみ大きく焦点を当てた抗菌薬適正使用モデルは、抗菌薬使用を最適にしようとしている感染症専門医/臨床微生物学者の能力を制限する可能性があるといえる。抗菌薬適正使用、具体的には抗菌薬使用承認システムは、医療従事者間の関係の育成および維持に時間と資源を投資することで、より効果的なものとなると考えられる。
サマリー原文(英語)はこちら
監訳者コメント
感染症のコンサルテーションを受け、同時に抗菌薬適正使用を推進する際、アドバイスしたコンサルテーション内容が的確に伝わり、実際に行われるかどうかは、コンサルタントと主治医との関係に大きく左右される。良好な、分け隔てのない関係を構築し、継続しようと努めるのは、どの医療機関でも、どの状況でも変わらない。重要なのは、アドバイス(リコメンデーション)を単に伝えるのではなく、主治医側の事情に配慮し、実行できる方向に持っていくことであるし、多大な時間と労力をかけねばそのための関係は構築できない。同時に、当事者として問題を共有し、尊重しながらともに解決してゆくという姿勢も欠かすことができない。本研究もまさにそのことを示しているように思える。

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